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年輪年代法について

産経新聞のニュースです。
日本で年輪年代法を確立した奈良文化財研究所がある市民団体より基礎データ開示を求められたことに対して不開示と返答したことにより近く提訴されることになるそうです。

年輪年代法を簡単に説明すると樹木の年輪のパターンはその時代の環境変化を反映していることから、年輪パターンを蓄積することで少しずつ年輪パターンが同じ木のデータを繋げ過去からの年輪パターンを作成することができ、出土した遺物をこのパターンに照会させると絶対値としての年代特定ができるというものです。

今回の問題はこの年輪パターンの基礎データの開示を求めたことに対して拒否をしたということにあります。なぜ拒否したのか?これは推測でしかわからないですが、状況はなんとなくわかるような。そんな勝手な想像を書きたいと思います。

 

●第一人者の功罪

日本で年輪年代法を確立したのは奈文研に在籍していた光谷拓実先生です。光谷先生は年輪年代法の第一人者として数々の実績を上げられました。その後先生は奈文研を退所しているのですが、自身の研究をそのまま持ち出しています。つまり今現在奈文研は提訴されても年輪年代法について返答できる後継者が不在なのではないでしょうか?
第一世代の影響力が大きければ大きいほど、次世代は育たないのはよくある話で、年輪年代法においてもこの視点があるんじゃないかなと推測します。

●技術進化に対して資料保管の在り方

年輪年代法は年輪を視る訳ですが初期(30年前)にはカメラ技術は未熟で顕微鏡によるアナログな分析でした。ところが今現在はデジタルカメラを駆使することになっていて、その基礎データを測定する測定技術側の進化をどのように継続的に管理し、試料そのものについても後々の再計測を想定した保管をするかという管理の問題が重要です。おそらく今現在、基礎データを再計測し再現可能な状態での資料の管理はできていないのではないでしょうか。

あと気になるのは試料の持ち出し管理。研究開始から30年以上経過する中、台帳管理が初期段階からなされていないと途中からデータベース作ろうにも作れないでしょう。また研究者が寝食を削って研究に没頭すると研究所と自宅が曖昧になり持ち出し管理が杜撰になることもあり得ます。

もしこの推測が正しいとしても、それが奈文研の著しい落ち度かというと、落ち度でしょうけど、日本の組織のどこでも起こり得る問題だなという気もします。どうご担当の方はこの難局を乗り切られるのか?

一方でもし年輪年代法の絶対値にも不安が生じるとしたら、以前に記事にしました炭素14年代測定法への疑念の問題と併せて再整理して理解しなおす必要が出てきます。

どうなるかはよく分からず想像ばかりですが、顛末として考古学会の後退にならないことを祈るばかりです。